日産は2018年に燃料電池車の市販計画を凍結しましたので、今後新たな燃料電池車が登場する可能性は極めて低くなっています。世界的自動車メーカーである日産は、企業の一つです。
トヨタやホンダと並んで日本を代表する自動車メーカーである日産ですが、燃料電池車を諦めるに至った経緯や理由をまとめてみました。
燃料電池車の開発を凍結した理由
ドイツのダイムラー、アメリカのフォードと共に、燃料電池車の共同開発を進めていた日産ですが、2018年6月に計画を凍結するとの発表がありました。
凍結に至った理由は単純明快で「水素ステーションの普及が進んでいないから」です。
水素ステーションの整備を促進するためにJHyM(日本水素ステーションネットワーク合同会社)が2018年3月に設立され、燃料電池車を既に市販しているトヨタやホンダだけではなく、実は日産も参画企業に名を連ねていました。
しかしながら、その3ヶ月後に燃料電池車の量産化計画の凍結(事実上の撤退)ということになってしまいました。
ただ、現在も引き続きJHyMの参画企業にはなっているため、水素ステーションの普及がどんどんと進むようなことがあれば、凍結した計画を再度始動する可能性も0ではありません。
燃料電池車から撤退するまでの歴史
日産が燃料電池の研究開発を始めたのは1996年のことです。FCEVの技術開発を始めてから3年後の1999年5月には「ルネッサ」と呼ばれるメタノール改質式燃料電池車を開発し、走行試験を始めました。
なお、FCEVとはFuel Cell Electric Vehicleの略で、日本語では「燃料電池電気自動車」や「燃料電池ハイブリッドカー」などと略されることもありますが、基本的には世間一般で言われている燃料電池車のことを指します。
2001年~高圧水素式XTERRAで公道走行実験を開始
日産の燃料電池開発において非常に大きなポイントとなったのが2001年です。
前年の2000年3月にアメリカでCalifornia Fuel Cell Partnership(カリフォルニア燃料電池パートナーシップ)に参加したことも布石となり、2001年4月には投資総額850億円にも及ぶプロジェクトをルノーと共に立ち上げました。
「高圧水素式XTERRA」という車両を用いて、アメリカのカリフォルニア州サクラメントを中心として公道走行実験が開始されたのも、ちょうどこの頃です。
2002年の12月には、国土交通大臣認定を取得した「高圧水素式X-TRAIL 02年モデル」という車両を用いて、日本でも公道走行実験が開始されました。
翌2003年12月には「高圧水素式X-TRAIL 03年モデル」が誕生し、FCEVの初めてのリース販売をスタートしました。2004年3月にはガソリンスタンドでお馴染みのコスモ石油に、4月には神奈川県と横浜市に、それぞれ納車しています。
2005年~X-TRAILの誕生
2005年12月になると、70MPa高圧水素容器を搭載した「X-TRAIL 05年モデル」が登場します。
03年モデルの改良型で、70MPa高圧水素容器を搭載しているだけではなく、燃料電池スタックも日産が自社開発したものを使っています。なお、こちらの05年モデルは、2006年2月にカナダの公道で走行実験が開始されました。
2007年には「ハイヤー仕様 X-TRAIL」が誕生します。05年モデルを元にハイヤー仕様にされたこちらの車両は、世界で初めてハイヤー営業に使用された燃料電池車となっています。
2008年には、05年モデルに搭載していた燃料電池スタックの2.5倍の出力密度を誇る次世代型燃料電池スタックの開発に成功します。
単純に出力密度だけが優れているというわけではなく、白金使用量と部品種類数が4分の1になったほか、スタックコストも6分の1まで低減されました。なお、数値はいずれも05年モデル比です。
2012年~TeRRAの誕生と、ダイムラーとフォードとの技術提携
そして、2012年に開催されたパリモーターショーで公開されたのが「TeRRA(テラ)」です。SUVとFCEVという日産の強みを掛け合わせて作られたコンセプトカーとなっています。
またTeRRAには、日産の電気自動車(EV)の代表的存在である「リーフ」に使用されているシステムが導入されているという特徴もあります。もちろん搭載されている燃料電池は前述の最新タイプのものです。
2013年1月には、ルノー(仏)・ダイムラー(独)・フォード(米)という世界的自動車メーカーらと、燃料電池システムを共同開発するという発表もされました。
各社とも燃料電池の研究開発を長年続けてきたという素地があるため、量産型燃料電池車を早ければ2017年に発売することができるとのことです。
2016年~水素ステーションを必要としない燃料電池車の開発
2016年8月4日、水素ではなく、バイオエタノールを発電動力とする燃料電池車「e-Bio Fuel-Cellプロトタイプ」を発表しました。
一般的な燃料電池車では固体高分子形(PEFC)と呼ばれる種類の燃料電池を使用していますが、こちらは車両に搭載するのは世界初となる固体酸化物形(SOFC)を使用しています。
固体高分子形と固体酸化物形の違いは「燃料電池とは?」のページをご参照ください。
「e-Bio Fuel-Cellプロトタイプ」では、車両にバイオエタノールを充填することで、車内で水素を作って発電できるため、水素ステーションも必要ありません。
そのため、国が推進している水素社会の実現に向けて、逆風となってしまうとの論調も見受けられます。
2018年~燃料電池車の商用化計画の凍結
そして最終的に2018年6月に計画の凍結を発表します。
直前まで開発を進めていた「e-Bio Fuel-Cellプロトタイプ」が水素ステーションを必要としない燃料電池車であることから、日産は水素ステーションの普及に疑問を感じていた、もしくは普及は難しいと感じていた可能性が高いです。