燃料電池はどのようにしてできているのか、その仕組みと発電の原理を解説しています。

燃料電池車やエネファームのおかげで、以前と比べると燃料電池がメディアに取り上げられることも増えてきましたので、燃料電池の種類やメリットデメリットまで、簡単に分かりやすくまとめてみました。

仕組み

燃料電池の仕組み

文字で解説するよりもイラストで見て頂いた方が分かりやすいと思いますので、エネファームや燃料電池の促進を行っている「一般社団法人 日本ガス協会」の公式ホームページにて公開されているイラストをご紹介させて頂きました。

セル イラストに示されているものを総称してセルと言います。後述する電解質と2つの極とセパレーターで構成されています。
スタック セルを複数積み重ねてできた燃料電池本体のことです。単にスタックと表記されることもあれば、セルスタックや燃料電池スタックと表記されることもあります。
電解質 溶媒に溶かした際に、陽イオンと陰イオンを発生する物質のことです。溶け出した溶液は電導性を示します。この電解質に何を用いるかによって種類が分けられています。
燃料極 水素を供給する側の極です。陽極やアノードと表記されることもありますが、前述のイラストのように水素がある極と覚える方が分かりやすいです。
空気極 酸素(空気)を供給する側の極です。燃料曲とは逆に陰極やカソードと呼ばれることもあります。ただ、こちらも酸素がある極と覚えてしまいましょう。
セパレーター 水素が通過する層と、酸素が通過する層を分離する役割を果たします。前述の各項目にも共通して言えることですが、セパレーターがないと燃料電池として機能しません。

発電の原理

燃料電池の原理

  • H2:水素
  • O2:酸素
  • H2O:水
  • H+:水素イオン
  • e-:電子

燃料電池の発電の原理をまとめたイラストがこちらです。

先ほど登場した燃料極と空気極が左右に描かれていますが、簡単に言ってしまうと「水素と酸素を化学反応させて電気を生み出す」ということです。理科の得意な方なら「水の電気分解の逆の化学反応」と言った方が分かりやすいかも知れません。

家庭用燃料電池コージェネレーションシステムとして、既に一般家庭にも導入が進められている「エネファーム」や、ついに市販が始まり、今後の普及に期待がかけられている「燃料電池車」も基本的には同じ仕組みです。

ちなみに、エネファームの場合はコージェネレーションという仕組みを採用しているため、水素と酸素の化学反応時に発生する熱も給湯に利用することができ、無駄の少ないエネルギー利用法となっています。

種類

テレビや新聞などのメディアで紹介される際には「燃料電池」と一言で表記されることがほとんどですが、実は燃料電池にも複数の種類があります。

いずれも基本的な概念や仕組みは変わらず、使用する電解質によって分類されています。

比較項目 固体高分子形(PEFC) リン酸形(PAFC)
電解質 高分子電解質膜 リン酸
作動気体 水素 水素
作動温度 常温~90℃ 150~200℃
発電効率 30~40% 35~42%
開発状況 実用化 実用化
主な用途 家庭用
携帯機器用
燃料電池車用
工業用
産業用
比較項目 溶融炭酸塩形(MCFC) 固体酸化物形(SOFC)
電解質 炭酸塩 セラミックス
作動気体 水素
一酸化炭素
水素
一酸化炭素
作動温度 650~700℃ 750~1,000℃
発電効率 45~60% 45~65%
開発状況 研究開発段階 研究開発段階
主な用途 工業用
分散電源用
工業用
分散電源用

固体高分子形燃料電池(PEFC)

電解質に高分子電解質膜(陽イオン交換膜)を用いているタイプです。小型化と軽量化が可能であることから、エネファームや燃料電池車などに用いられています。

作動温度が低いことや起動が速いなどといったメリットがある一方、他の種類の燃料電池と比べると発電効率は低めとなっています。

リン酸形燃料電池(PAFC)

電解質にリン酸を用いているタイプです。最も古くから研究が進められていたため、前述のPEFCと同様に、既に実用化されています。

PEFCよりも発電効率は高いものの、作動温度も高めとなっています。商業用や産業用の比較的規模の大きなコージェネレーションシステムに採用されていることが多いです。

溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)

電解質に炭酸リチウムや炭酸カリウムなどといった炭酸塩を用いているタイプです。作動温度は高いですが、その代わり発電効率も高くなっています。家庭用として使うことはできませんが、分散電源として活用できるよう実証研究が進められています。

固体酸化物形燃料電池(SOFC)

電解質に安定化ジルコニアやランタンなどといったイオン伝導性セラミックスを用いているタイプです。MCFCよりも更に高温で作動する高効率の燃料電池となっています。

こちらもまだ研究段階ですが、小型のものであれば既にENEOSがエネファーム(Type S)に搭載しています。

メリット・デメリット

ハイブリッドカーや電気自動車に次ぐ新たなエコカーとして注目を集めている「燃料電池車」や、家庭向けの省エネ設備として普及が進みつつある「エネファーム」に用いられている燃料電池。

自動車メーカーや家電メーカーが積極的に開発に乗り出していますが、どのようなメリットデメリットがあるのでしょうか。

4つの大きなメリット

まずはメリットからご紹介します。大きく分類すると4つの大きなメリットがあり、各メリットを見ると家庭向け製品や自動車にいかに向いているかが分かります。

環境に優しい発電方法である

燃料電池の最大のメリットと言っても過言ではないのが「環境に優しいこと」です。燃料電池は水素と酸素の化学反応を利用して発電を行うため、発電時に地球温暖化の原因となる「二酸化炭素」や、大気汚染の原因となる「窒素酸化物」などが発生しません。

そのため、自動車業界も積極的な開発を行っているのです。

騒音を発生させない

環境に優しいという点は、太陽光発電や地熱発電などといった再生可能エネルギーを利用した他の発電方法にも当てはまる項目ですが、燃料電池のもう1つの大きな特徴が「騒音を発生させない」という点です。

前述の通り、化学反応による発電であるため、タービンやエンジンは必要としません。そのため、音も発生しないのです。

発電効率が良い

燃料電池は化学エネルギーを直接電力に変換することができるため、発電効率にも優れています。他の発電方法では、タービンを回すという運動エネルギーを電力に変換するため、どうしてもある程度のロスが発生してしまいます。

送電ロスが極めて小さい

燃料電池車や、エネファームのような家庭用燃料電池は、発電した電力をその場で使用するため、送電ロスが極めて少ないです。エネルギーの地産地消とも言えます。

一方で、発電所で発電された電力は送電線から送られてくる間に送電ロスが発生してしまいます。

コスト面が最大のデメリット

何事もメリットばかりではありません。デメリットも当然あります。燃料電池も例外ではなく、問題点や克服しなければいけない課題を抱えています。

コストが高い

エネルギー設備には必ずと言っていいほど付いて回るのが「コスト」の問題です。

一般家庭に導入でいるエネルギー設備として、太陽光発電や蓄電池などがよく知られていますが、これらの設備と同様に燃料電池もかなりの初期投資を必要とします。

現在のところ、燃料電池メーカー各社が再設計による部品数の削減などを始めとした様々なコスト削減に努めているほか、国や自治体による補助金制度が整備されていますが、それでも一般消費者からすると簡単に手を出せる金額とは言えません。

寿命が限られている

燃料電池の種類や規模によっても異なりますが、寿命はだいたい4万時間とされています。

燃料電池車にしてもエネファームにしても、24時間絶え間なく稼働するわけではなりませんので、年数に換算すると7年~10年ほどが目安と言えます。

一つ上の「コストが高い」の項目で触れましたが、燃料電池は初期投資額が相当かかりますので、燃料電池を寿命まで使用したことによるガソリン代金や電気代金の削減効果に、誰しもが必ず満足できるとは言い難いです。