電気自動車(EV)と比べると、まだ知名度も普及度も低い状態にありますが、次世代のエコカーとして注目を浴びているのが燃料電池車(FCV)です。

燃料電池の英語表記である「Fuel Cell Vehicle」の頭文字を取って「FCV」と表記されることもあります

電気自動車が蓄電池の電気で動くように、燃料電池車は燃料電池の電気で走行することができます。

2014年12月15日にトヨタから「MIRAI」が市販され、そして2016年3月10日にはホンダから「クラリティ FUEL CELL」がリース専用で登場しました。

どちらも700万円を超える高級車となっていますが、補助金や自動車関連税の減税で、最大225万円ほど割安に購入できます。

仕組み

燃料電池車の仕組み

燃料電池の発電の仕組み

上段のイラストが燃料電池車が動く仕組みの解説図で、下段のイラストは燃料電池が発電する仕組みの解説図となっています。

一般的なガソリン車では、ガソリンを燃料としてエンジンを動かしていましたが、燃料電池車ではご覧の通り、水素を燃料電池に与えることで電力を生み出し、モーターを動かすという仕組みになっています。
(上段イラスト出典:水素・燃料電池実証プロジェクト

なお、電気自動車もエンジンではなくモーターを採用していますが、決定的な違いは燃料電池ではなく蓄電池を用いているという点です。

燃料電池車は燃料電池を用いて自ら発電を行いますが、電気自動車では発電をするのではなく、蓄電池に電力を蓄えておいて、その電力を使ってモーターを動かしています。

また、ハイブリッドカーはガソリン車と電気自動車の中間に位置する車です。エンジンも蓄電池も搭載されているため、ガソリンを使って動かすこともできますし、電力を使って動かすこともできます。

メリット・デメリット

燃料電池車の仕組みに続いてご紹介するのは、メリットとデメリットです。

メリットの方をご覧頂ければ「なぜ国や自動車メーカーが燃料電池車を普及させたがっているのか」が分かりますし、デメリットの方をご覧頂ければ「なぜ多くのメリットを持つ燃料電池車の普及がなかなか進まないのか」が分かります。

また、燃料電池車という全くの新しい自動車に対して、安全性に疑問を持たれている方も少なくないかと思いますので、メリットとデメリットの後に燃料電池車の安全性についてもまとめております。ぜひ併せてお読みになってみてください。

メリットは数多くある

トヨタやホンダやBMWなどといった世界的自動車メーカーが、長い時間と多額のお金をかけて研究開発を続けていることからも分かる通り、燃料電池車にはとても大きなメリットがあります。

  • 電気自動車よりも航続距離が長い
  • 電気自動車と異なり、充電が必要ではない
  • 地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しない
  • ガソリン車と比べて2倍以上のエネルギー効率を誇る
  • 発電しても騒音を発生しないため、走行時はとても静か
  • 走行時に排出するのは水(水蒸気)だけなので、環境に優しい
  • 補助電源を併用することで始動性や応答性を高めることができる
  • 普通車だけではなくバス(燃料電池バス)も既に開発されている
  • 一酸化炭素や浮遊粒子状物質(PM)などといった有害なガスを排出しない
  • 燃料となる水素は、ガスや石油やバイオマスなど様々なものから製造できる

デメリットは少ないが、課題・問題点は山積み

続いてデメリットのご紹介です。デメリットや問題点と言うよりは、これから実用化に向けて克服すべき課題と言った方が的確かもしれません。主にコストに関連した内容となりますが、こちらも箇条書きでまとめてみました。

特に注目して頂きたいのが最後の「水素ステーション」に関するデメリットです。

補助金や減税などによって燃料電池車が一般的に手が届くくらいの価格になったとしても、ガソリン車でいうところのガソリンスタンドの役割を果たす「水素ステーション」が全国に設置されないと、燃料電池車の普及は難しいと言わざるを得ません。

  • 燃料電池そのものの価格が高い
  • 水素の貯蔵や搬送に高いコストがかかる
  • ガソリン車ほどの航続距離は実現していない
  • 走行時の音が静かすぎる(歩行者に気付かれにくい)
  • 水素を補給するための水素ステーションの整備が求められる

事故と安全性

水素は使い方次第では大きな事故を起こす可能性がありますが、燃料電池車では非常に厳しい安全対策が施されているため、水素爆発等による被害の心配はさほど必要ありません。

一般のガソリン車が爆発炎上するリスクよりも小さいものだという認識で大丈夫です。

水素は危険ではない

水素爆発という言葉がよく知られていて、世間的には「水素は危険」というイメージを持たれてしまっていますが、それは誤解です。まず、水素に火が着くためには次の2つの条件が揃う必要があります。

  • 空気中の水素濃度が4%~75%である状態
  • 静電気程度のエネルギーが発生している状態

後者の静電気に関しては、私たちの日常生活でもよく発生していますので、条件としてはかなり緩いのですが、前者の水素濃度に関しては部屋の中などといった屋内の空間でない限り、条件を満たすことはありません。

水素は空気よりも軽く、拡散性が非常に高いため、屋外などの開放された空間ではほとんど濃度4%以上にはならないのです。

燃料電池車とガソリン車の事故を比較

次の画像はアメリカで行われた燃料電池車とガソリン車の事故実験のものです。燃料電池車は水素タンクを、ガソリン車はガソリンタンクを、それぞれわざと破損させて炎上する事故を発生させています。

前述の通り、空気よりも軽い水素は垂直に空気中を上昇していくため、火柱が車体後部から垂直に上がっています。一方、ガソリンは液体で空気よりも重く、地面に広がるため、ガソリンそのものだけではなく、車体やタイヤごと炎上してしまっています。

水素の拡散性の高さが事故時の安全性の高さに繋がっていると言えます。

事故時の燃料電池車とガソリン車を比較
出典:Fuel Leak Simulation(燃料漏れシミュレーション)

左が燃料電池車で、右がガソリン車。事故3秒後にはどちらも炎が出ていますが、水素は拡散性が高いため、1分後には炎がおさまり、1分30秒後にはほぼ収束しています。

一方でガソリン車は時間が経つにつれて炎上の激しさが増しています。車内に人がいると仮定した場合、安全なのはどちらか、一目瞭然です。

3段階の安全対策で破裂・爆発を防ぐ

ここまでで、燃料電池車に用いられる水素は必ずしも危険なものではないということがお分かり頂けたかと思いますが、ここからは燃料電池車に施されている安全対策をご紹介します。

2014年12月に市販されたトヨタの燃料電池車「MIRAI」を例に挙げて、分かりやすく3つのポイントを押さえています。

水素を漏らさない

最も根本的な安全対策として、水素タンク内の水素を漏らさないという点が挙げられます。

水素タンクには非常に強度の高い特殊素材を用いているほか、厚みもかなりあり、しっかりとしています。水素タンク内には350~700気圧という非常に高圧な水素が蓄えられるため、タンクには様々な技術が用いられているのです。

なお、トヨタが行った事故実験では、車体がクラッシュするほどの大きな衝撃を受けても、水素タンクは壊れることなく、水素が漏れることもありませんでした。

センサーで水素の供給を止める

事故や衝突などの際、ドライバーや同乗者を保護するためにエアバッグが搭載されていることはあまりに有名ですが、同様に水素タンクのメインバルブも閉じられます。

加速度センサーというセンサーが設置されていて、事故や衝突時にこちらのセンサーが反応し、そしてタンクのバルブが自動的に閉められるという流れです。

水素が漏れたら溜まらないようにする

1番2番の安全対策は水素タンクが破損しないためのものですが、こちらは万が一、水素タンクが破損したり、センサーが反応せずに水素の供給が止まらなかった場合などへの安全対策です。

当ページの冒頭で、水素濃度が4%を超えると着火する可能性があることを説明しましたが、その濃度を下げて着火しないようにしています。

具体的にどのような施策が施されているのかというと、水素タンクの下部や水素を供給するための配管が車体外に設置されているのです。こうすることによって、漏れ出してしまった水素が空気中に拡散されるため、水素濃度が上がることを防ぐことができます。

車体が炎に包まれても爆発しない

最後に、水素が火元となるケースではなく、外的要因で車体や水素タンクが炎に包まれてしまった場合の安全対策をご紹介します。一言で外的要因と言っても様々なケースがありますが、代表的な例は以下の2つのような場合です。

  • 車庫に燃料電池車を止めている状態で、家屋が火事になった場合
  • 事故で別の車が炎上し、そこから延焼した場合

これらのようなケースだと、車体や水素タンクが炎に包まれてしまいますが、想定しうる最悪の事態は「水素タンクが熱で破裂する」ことです。

前述の通り、水素タンク内は350~700気圧という非常に高圧になっていますので、破裂の際の衝撃も相当なものになることは想像に難くないです。

水素タンクが炎で熱されることで、タンク内の気圧が上昇してしまうため、破裂の危険性がある訳ですが、これを防ぐためにタンクに「溶栓弁」と呼ばれる特殊な金属でできた弁が設置されています。

この溶栓弁が炎で溶けるようになっていて、溶栓弁が溶けるとそこからタンク内の水素が放出されるという仕組みです。水素が放出されることでタンク内の気圧が低下し、破裂を防ぐことができます。

燃費

複数の自動車を比較する材料としてよく挙げられるのが「燃費」です。自動車は購入時に百万円単位のお金がかかりますが、購入した後も車検代や保険代などといった維持費がかかりますので、燃費を考慮することはとても重要です。

なお、「燃費性能」と表記されることもありますが、こちらでは「燃費」の表記で統一しています。

定地走行燃費とモード走行燃費

本題に入る前に燃費について簡単に解説させて頂きます。

燃費とは自動車や二輪車における燃料消費率を意味します。「定地走行燃費」と「モード走行燃費」という2種類の形式がありますが、どちらにも共通して言えることは「燃料1リットルで、どれだけの距離を走行することができるかを示している」という点です。

定地走行燃費とは

かつて採用されていた燃費の計算方式です。

「アップダウンのない平坦な定置を一定の速度で走り続けた場合の燃費」を表示するというもので、加速や減速を考慮しないため、実際の走行よりも数値は良くなります。

日本では法律で定められた制限速度の上限である60キロを燃費測定時の速度に設定していました。

モード走行燃費とは

定地走行燃費では実態にそぐわないとして、新たに誕生したのがモード走行燃費です。

こちらは発進や停止やアイドリングなども含めているため、定地走行燃費よりは数値が悪く出ますが、消費者の実際の走行時の数値に近づくという特徴があります。

2011年までは「10・15モード燃費」というタイプで測定されていました。これは市街地での走行を想定した10のパターンと、郊外での走行を想定した15のパターンを組み合わせて算出するという方式です。

その後、2018年まではより実際の使用条件に近づけた「JC08モード燃費」での測定が義務づけられました。「10・15モード燃費」よりも測定時間が長くなるほか、平均速度と最高速度も高く設定して、測定します。

そして、2018年10月からは「WLTPモード燃費」が採用されています。国際的な試験方法で、以下の3つの走行モード毎の燃費を表示するようになりました。

  • 市街地モード(WLTC-L)
  • 郊外モード(WLTC-M)
  • 高速道路モード(WLTC-H)

燃料電池車とガソリン車の燃費を比較

ガソリン車の場合は「ガソリン1リットルあたりの走行距離」が燃費になりますので、燃料電池車の場合は「水素1リットルあたりの走行距離」が燃費と言えます。

ただし、ガソリンが液体であるのに対して、水素は気体であるため、充填時の圧力によって燃費の数値が大きく変わります。

また、燃料電池車とガソリン車の燃費を比較する際に重要となるポイントがあります。それは水素の価格です。

現状では「1Nm3あたり110~150円」とされていますが、経済産業省資源エネルギー庁から2030年を目安に「1Nm3あたり40円」を目指しているとの発表がありました。

Nm3(ノルマルリューベ)とは0℃1気圧の標準状態時のガスの体積を表す単位です。

前述の通り、水素は気体でガソリンは液体ですので、Nm3を単純にリットルに変換することはできないのですが、次の表の「距離あたりの燃費」をご覧頂ければ、現時点でもガソリン車とほぼ違いないことが分かります。

項目 燃料電池車 ガソリン車
価格 110~150円/1Nm3 130~170円/1L
距離あたりの燃費 10~14円/1km(目安) 9~12円/1km(目安)
提供施設 水素ステーション ガソリンスタンド
設置場所 一部地域に少数 全国各地に多数

注意点

  • ガソリン車の燃費は15km/Lで計算
  • 水素ステーション建設に大きなコストがかかり、それを水素料金に反映する場合は価格が高くなる可能性があります。
  • ガソリンには税金がかけられていますが、税率の変更によって価格が大きく変動する可能性があります。
  • 水素に関しても税金が絶対にかけられないとは限りませんが、国の方針として水素価格を「1Nm3あたり40円」まで下げることを目標としているため、可能性は低いでしょう。

主な燃料電池車メーカー

燃料電池車の開発に力を注いでいる主な自動車メーカーをご紹介します。

世界中にある自動車メーカーの中でも、特に日本のメーカーは燃料電池車や電気自動車などといったエコカーへ取り組みが盛んです。

また、燃料電池車の分野では、海外の自動車メーカーと技術提携を結んでいるケースも多く、例えばトヨタはBMWと、ホンダはGMと提携して、燃料電池車の研究開発を行っています。

  • トヨタ(BMWと提携)
  • ホンダ(ゼネラルモーターズと提携)
  • BMW(トヨタと提携)
  • ゼネラルモーターズ(ホンダと提携)
  • メルセデス・ベンツ
  • ヒュンダイ
  • 日産(ダイムラー・フォードと提携も開発停止)

航続距離(走行距離)ランキング

下の比較表の通り、航続距離以外の2項目はホンダもトヨタも同様です。これは「水素ステーションを普及させる」という目的を達成するため、両社が協力して共通の水素タンクを搭載しているためです。

航続距離だけ見ると、ホンダの方が優れているようにも見えますが、両社とも水素タンク以外は異なる独自の技術や設備を搭載しているため、ホンダかトヨタのどちらかが優れていると断言することはできません。

項目 ホンダ クラリティ FUEL CELL トヨタ MIRAI
航続距離 750km 650km
最高速度 165km/h 175km/h
水素充填圧力 70Mpa(約700気圧) 70Mpa(約700気圧)
充填時間 3分 3分

価格と補助金

燃料電池車の価格と補助金についてまとめているコーナーです。国が水素社会の実現に向けて様々な施策を行っているため、燃料電池車も補助金の交付を受けることが可能となっています。

価格に関しては、市販されている燃料電池車のみを対象としているため、現在はトヨタ MIRAIホンダ クラリティ FUEL CELLだけとなっております。

ただ、BMWやメルセデス・ベンツを始めとした他の大手自動車メーカーも燃料電池車の市販化を進めていますので、新たな情報が入り次第、更新していきます。

補助金の種類

燃料電池車を購入する際に適用可能な補助金には以下の4つがあります。

補助金制度 金額
自動車グリーン税制(自動車税) 約22,000円
エコカー減税 約211,800円(自動車重量税約30,000円+自動車取得税約181,800円)
CEV補助金(クリーンエネルギー自動車等導入費補助金) 約202万円
地方自治体による独自の補助金 自治体によって十数万円~数十万円

自動車グリーン税制からCEV補助金までを合計すると約225万3800円になりますが、MIRAIやクラリティ FUEL CELLを購入する場合には、この金額の優遇を受けることができるということです。

更に、お住まいの地方自治体の補助金も受けられるのであれば、ここに更にプラスで優遇を受けることが可能になります。

実質いくらで買える?

MIRAIの本体価格は727万4880円、「クラリティ FUEL CELL」の本体価格は767万2320円です(共に税込)。

どちらも金額的には間違いなく高級車の部類に入りますが、一般のガソリン車では受けられない前述の各種優遇を受けられます。

本来、自動車を購入するためには「本体価格+自動車税+自動車重量税+自動車取得税」を支払う必要がありますが、MIRAIとクラリティ FUEL CELLの場合は、前述の減税が適用されるため、本体価格から補助金額を差し引くことで購入に必要な費用を計算できます。

それぞれの実質価格はこの通りです。また、地方自治体からの補助金制度も利用できるのであれば、ここから更に数十万~百万円程度を差し引くことができます。